SDP / 今夜はブギー・バック (smooth rap : 小山田圭吾 remix)

from al. 『サイクル・ヒッツ』 95


 リミックス。というのはもうだいぶ前から超メジャーな用語(および概念)で、今やマキシ・シングルの、おそらく半分くらい3か4トラックめに、メイン・トラックのリミックスが収録されている。タイトル・トラック+リミックス2トラック+インスト、みたいなパターンも多い(あくまで個人的な経験則で言うと、こういう「要は1曲しか入ってないじゃん」シングルは大抵、飽きるのが早い)


 そんなわけで今やいろんなアーティストの、いろんなリミックスをぼくらは耳にする。一般にオリジナルが良ければ良いほど、思い入れが強く入るぶん、自ずとリミックスに求めるハードルは高くなる。で、結果「これならオリジナル聴いてるほうが全然良い」とか「悪くはないけど・・・やっぱ原曲で十分」ってケースが大半(具体的には、どんだけ豪華なリミキサー名を畳み掛けられようとキリンジのリミックス盤をぼくは買いません。という話)

 とはいえ、これほど日々量産されているリミックスの、中に秀逸なトラックが存在しないはずはなくて(順番が逆な気もするけど無視)勿論ぼくにも「このリミックス好きだなー」っていうのは、ある。結局は(当たり前の話だけれど)発想やセンスの問題であって、今までの話を完全に素無視した結論で恐縮ですが、良いリミックスはやっぱり良い。ごめん疲れてる俺今。


 中には原曲を優に凌駕する名リミックスも確かにある。Francois K という才能がもしなければ、ぼくが AK という人のアルバムを手に取ることはきっと一生なかったと実際(ちょっと古い話だけど)思う。しかし、ことリミックスに限って言えば、小山田圭吾の手掛けた「今夜はブギー・バック」以降の10年間、ぼくはこれを超える驚きに未だ一度も出会っていない。

 95年。というとぼくは中学3年生で、まだ当時は「なんか最近リミックスってのたまに聞くけど、要するになんなんですかねこれは」っていう感じだった。「曲を解体して再構築する」とか言われても全然ピンと来ない15歳。青い。蒼井。そら。ごめんなさい疲れてます。なんとかリミックス、と冠された幾つかのトラックを聴いて、その意味するところはまぁ漠然とわかるけど、それがつまりどう面白いのかさっぱり理解できなかった。


 そんな無知の海原へ投下された核爆弾がこれだった。一発で「あ。これがリミックスっていうことか」と、実感として理解できた。なので、この曲はぼくにリミックスを定義づけてくれた最初の(そして今に至るまで最後の、でもある)革命的なトラックだった。このとき教わった「リミックスとは、つまり自分にしかできない方法で原曲を遊び倒すことだ」という定義は、ぼくの中で未だ塗り変えられていない。

 「自分にしかできない」という部分はいろんな意味に解釈できるし、その、どの意味で使っても良い。とにかく至上の命題、なんである。いかなる形であれそこさえクリアできていれば、ひとまずそれは「リミックス」と呼ぶに値する良いトラック。とぼくは考えるのですが、さて、いざとなると言うは易し行うは難しで、要するに「良いオリジナルに出会うより、良いリミックスに出会うほうがもっと大変」ということです。