The Peppers / Queen Kong

from ost. 『Queen Kong』 76


 「クィーン・コング」という映画があります。その名の通り、かの傑作「キング・コング」をパロディにした、メスゴリラが縦横無尽に暴れ狂うモンスター・パニック in ゴリラ映画(?)であり、そのサウンドトラックを担当するのが我らが(??) The Peppers であります。


 さて。そもそも The Peppers なるこのバンド、誰か知ってる人はいるんでしょうか? 試しに「The Peppers」「Queen Kong」の日本語検索でググってみたところヒット数ゼロ。という絶望的な知名度の低さを叩きだした The Peppers。しかしその無名さもむべなるかな(使ってみた。島崎君リスペクト)何しろ公式にもバイオグラフィーの一切残っていない、まさに正体不明のバンドらしいです。


 本題とはズレますが、ちょっとここで映画「クィーン・コング」にスポットを当ててみましょう(以下、サウンドトラック「クィーン・コング」ライナー・ノーツより抜粋)

 1976年、ディノ・デ・ラウレンティズは、パラマウント社と共同で映画史に残る名作「キング・コング」のリメイクを制作すると発表した。だが、そのとき同時にユニバーサル社も同じ企画を準備していたことから裁判となり、結局ユニバーサルが破れてユニバーサルの企画は流れた。こうしたトラブルは世界中のプロデューサーを刺激し、世界各国で便乗企画が進められた。ラウレンティスはそれらにも過敏に反応し、あらゆる手段を使って次々と類似作の制作を中止させた。その結果、ほとんどの便乗企画は潰されたかに見えた。しかし、ラウレンティスが「決して、陽の目を見させはしない!」と最も怒り、完成を恐れたある作品だけは制作を続け、そして完成していた。


 それがフランク・アグラマが監督した「クィーン・コング」だった。ストレートなパクリ精神と貪欲なバイタリティでアグラマは本家が完成する前に突貫で映画を完成させ、本家の公開を待っていたのだ。しかし、それでもラウレンティスは強大な圧力をかけ、その作品を映画史から抹殺しようとイタリアで公開中止の裁判を起こした。裁判は、この映画は著作権違反でなくパロディ・コメディであり公開しても問題ないという理由でアグラマが勝利し、各国の配給会社が公開の準備を進めた。だが、結局すべての会社がトラブルを恐れて公開を自粛。ドイツで数回自主上映されただけで、この映画が正式に上映されることは一度もなかったという。


 「クィーン・コング」。それは「キング・コング」での男女関係を逆転させたパロディであるだけでなく、70年代ならではの女性解放運動をベースにした超フェミニズム映画であり、「エクソシスト」「ジョーズ」「猿の惑星」「エアポート75」などのナンセンスなパロディがちりばめられ、インド映画もビックリの歌と踊りまである映画史上屈指の怪作だった。世界の極めてディープな映画ファンさえ見たことのない、世界中のどんな文献にもほとんど書かれていない正真正銘の幻の映画なのである。


 ・・・で。それから25年、映画史から抹殺されたこの幻の怪作を長年探しつづけた配給関係者がとうとうオリジナル・ネガとサントラ音源を発見し、日本では2001年に公開(でも結局、大コケしたらしいですけどね)サウンドトラックも発売されたそうですよ。

 The Peppers に関しては当のアグラマ監督も「若手のバンドを使ったが彼らの消息はわからない」と言うくらいなんの情報も残ってなくて、「音源もどこにあるかわからないし、もう残っていないだろう」と言ってたくらいらしいので、まぁ発掘されただけでも奇跡に近い出来事なんでしょう。

 

 で。本題ですが、その「幻の」サウンドトラックがなんとも面白いんですよ。

 メイン・テーマであるところの1曲め「クィーン・コング」は、リズミカルなサウンドに乗せて「クィンクィンクィンクィン、クィンクィンクィン・・・クィーン・コング! コンコンコンコン、コンコンコン・・・クィーン・コング!」という、こうして文字に起こしてみると、どことなくとんねるず「ガラガラヘビがやってくる」を彷彿とさせる脱力感たっぷりフレーズを軽快に歌い上げるファンク&ポップ(これクラブで今かけたら絶対踊れる。ノレますよ絶対!)


 全12曲、トータル・タイム16分。というボリュームのやや物足りなく、そのくせ「幻の」の付加価値が上乗せされて2100円もする(ASIN:B00005L8PU)このサウンドトラック。

 まぁぶっちゃけ定価ぶんの価値があるとはぼくには思えないんですけど(ちなみに映画じたいをぼくは見てません。見たら、もしかして価値観も変るかもしれませんが)機会があったら一度聴いてみるのも悪くないと思いますよ・・・という、今日のはまぁレビューでなく「アルバム紹介」って感じですね。


 それにしても11曲め「If I Were Just An Ordinary Gorilla」っていうタイトルが既に面白い。どことなく漂う妙な切なさが、けどどうしようもなくバカっぽくて笑える。

 “If I Were・・・” なんて教科書の中限定の特殊な文法と思ってたら、意外と普通に使われるもんですね。まぁクレジットじたいが76年に書かれてるわけだし、むべなるかな(これが言いたかっただけ。文意は適当)