探求Ⅰ


 アジカンと言えば思いだすのが、ぼくの恋人は「プログレ県出身、4つ打ち市在住」という経歴の人で、「あらゆるダンス・ミュージックはプログレをルーツとしている」と声高に主張しては批判を頑として認めない。という 困った 面白い人なんですけど、そういう人なのでいわゆるギター・ロック。特に90〜00らへんの国産メジャー・ブランド、みたいのに興味を示さず、例えばゆらゆら帝国とかナンバー・ガールを「カッコイイとは思う」と言いながら能動的に聴いたり殆どしないのですが、そんな彼女の唯一(は言いすぎかもしれない)積極的に聴く邦楽ロックが Asian Kung-fu Generation だったりします。


 今年の Fuji Rock Festival の、初日の午後2時半頃なんですけど、キャンプ・サイトで休憩していたぼくらは3時10分開演の「想い出波止場2020 feat. DJおじいさん」を見ようとオレンジ・コートへ移動しはじめました。見たがったのは主にぼくで、彼女は「暇だしまぁついてくか」程度のライトなノリだったんですが、奇しくも同じ3時10分から Asian Kung-fu Generation がレッド・マーキーにライン・アップされていたため、それ目当てに動きだす人数も結構いました。

 ぼくらの少し離れて隣を歩いていた少年2人組もそうで、ぼくには聞き取れませんでしたが彼女の位置だと、欹てずとも彼らの会話が自然に耳に入ってきたらしい。そのとき少年の片方が口にした

 アジカンてさー、なんか「童貞の初期衝動」って感じで良いよなー。


 という発言で、彼女に衝撃が走ったそうです。それを口伝えで聞いたぼくは「あー。うまい言い方するね、うん、なるほど」って納得する程度でしたが、やはりその少年の口から直接、彼自身の声と言葉で発せられたものにこそ、人を強烈に打つ特別な力・・・いわゆる言霊が宿っていたのでしょう。

 そして彼女は突然「ごめん、やっぱ私アジカン見てくる!」とレッド・マーキーへ踵を廻らせ、次に合流したときTシャツは汗だくになっていました。


 つまり人間、何がきっかけで何を好きになるか。ほんとわかったもんじゃねぇよなって話で、アジカンの音じたいは本来どう贔屓目に見積もっても彼女のツボじゃないわけで、けれどたまたま近くを歩いていた少年という第三者の「童貞の初期衝動」なる言霊が、騙し討ちのような角度から両者を結びつなげてしまった。

 もしぼくらがあと1分、テントを遅く出ていたら彼女は Asian Kung-fu Generation に未だ見向きもしていないかもしれないわけで、そう考えると因果なり巡り合わせっつーのは面白いなぁ。と思う。