10分前


 職場のクーラーがブチ壊れたよわーいぶっ殺す。


 と、さて今俺は書いたが、これを読んだ10人中9人は「ふーん・・・そうなんだ大変だね」と20メートル上空をぼんやり眺めながらの生返事で事もなげに呟き、残る1人も「ふーん・・・そうなんだ頑張ってね」と一応「私は励ましてますよ」スタンスで体裁を取り繕いはするものの、言外に「まぁ別にアンタが頑張んなくても私は死なないし関係ないけどね」オーラのありあり漂う涼しい表情をしているだろうに違いない。つまり俺はそういう、人の痛みや苦しみを我が事として捉えられないお前ら東京砂漠の住人どもに向けて今さっき「ぶっ殺す」と吐き捨てたのだよ。クーラー壊れたとかは2の次で実際どうでも良いんだよ。いや全然良くないんだけど、ぶっちゃけ今俺もクーラーの効いた涼しい部屋で快適にこれ書いてるもんだから正味どんだけキツかったとか実感できてないんだよねあんまり。痛みは完全に喉元を過ぎた。

 けどまぁとにかく大変だったのは事実で、というか明日以降もまた地獄の業火に焼かれながら、狂気の室温を誇る職場で汗にまみれて働かねばならぬ我が身を憂●ずにいれません。さてここで問題なのは、どうやってその地獄の環境を俺は乗りきるべきか? という肉体的な課題より、その前にさっきの●の部分て何入れたら良いんですかね? という精神的な、と言って良いのか微妙で曖昧な問題である。なんてこった「憂う」の活用がわからない。活用がわからないことより、わからない自分を今日まで知らなかったことに今初めて気づいて驚いている。


 そして驚きのあまり俺は当初、何を言わんとしてこの文章を書きはじめたか忘れてしまった。職場のクーラーが壊れました、と冒頭で告白しているけれども、そこから話を何かにつなげて、そのつなげた先に本題があって、その本題を伝えようとして確かにこれを書きはじめた、はずなんだけど・・・あれ? ほんとになんだっけ。やばい素で忘れた。マジで思いだせないどうしよう。


 あれゴメンほんとわかんないや。完璧に失念した。ので申し訳ないけど今日はこのへんで、と逃げたい気持ちで早くもいっぱいだが、さすがにそんな暴挙に出ると「後味の悪い日記大賞・第1位」の不名誉に与ってしまいそうなので止むなくもう少しつづけようと思う。えーとクーラーがね、壊れたんですけど・・・あの、これすごい大変ですよ。汗だくになりますね。だから・・・その、えーと皆さん気をつけて明日も頑張ってください。


 あれうっわーやばいどうしよう完全にデフレ・スパイラルしてるこれ。どこで切っても超後味悪いとこまで来ちゃったよ。なんだよクソこういうことがあるから更新とか嫌いなんだよ俺。ドサクサ紛れに暴言吐いたりしてみたけど考えてみればクーラーさえ壊れなければこんな事態に陥ることもなかったわけでブチ壊れたとかマジありえないほんとぶっ殺す。今の「ぶっ殺す」はクーラーに向けて書きました。

 ついでに言うとぼくの職場にはCDの盤面にコンパウンドつけてがー。て回すと、あら不思議、大小問わず無数に傷の入ってたディスクがぴっかり光ってまるで新品みたいじゃないのアナタこれ。すっかり傷1つなくて玉のお肌のようじゃないこれ。ところで玉の肌? というファインなマシンがあるのですが、というか単なる研磨機ですけど、単なる研磨機をここまで回りくどく説明してしかも大半が説明にすらなってない日記もなかなかそう滅多に世の中ありませんよ、といった点である意味この日記は稀少です。稀少だけど貴重じゃありません。あ、それって単なるクズじゃねえか。


 そしてそんなクズのような研磨機も、クーラーが音を発しなくなったのとほぼ時を等しくして、正常に動作させているのに突然ぷつっ。と電源が飛び、30分ほどあっちの世界に行っちゃったりとかしだしました。おい、お前もかよ。まぁもともとクズのような研磨機だし仕方ねぇな、と納得したいのも山々ですが、しかしここで皆さん思いだしてほしいのは、別に研磨機は「単なる研磨機」であって「クズ」と言ったつもりは俺、一言もないんですよね前の段落で。ところが当段落の冒頭は「そんなクズのような」と、のっけから研磨機をクズと断定してる。これがマジックです。現在世の中に流通している詐欺や詐術の大半が、この原理で基本的に組まれてますので皆さん覚えておいてください。悪徳業者にご注意を。

 それと悪徳業者に云々とかいうメッセージは、俺が当初、今日ここで書きたがっていた本題とは明らかに 540°別の次元の話であることも一応、覚えておきましょう。クーラーが壊れ、研磨機も「ブチ」まではぎりぎり行ってないけどブレイク・ダウン一歩手前。そして当更新の文章構成も木端微塵に砕け散りました。たった1日で、次々と身近なものが壊れていきます。


 なんていうタイトルだったか忘れたけど、星新一さんの短編で、ある日唐突に身の周りの物が次々壊れだし、それって結局地球そのものの寿命だったよじゃあもうそんなのどうしようもないねはいサヨウナラ・・・みたいな話が確かあったと思うんですけど、まるで今日ぼくはそんな世界に迷い込んでしまったようでしたけど、にしたって今のあらすじ解説はあんまり適当すぎるじゃないかという気も少ししますけど、もし実際そうして、何人にも抗えない摂理という名の力学で日常がゆっくり、少しずつ壊れだしたら、ぼくは静かにそれを受け入れれるだろうか。

 今日はクーラーが壊れた。研磨機も明日には天に召されるだろう。明後日には自動販売機が死んで、煙草やジュースが買えなくなってしまうかもしれない。3日後にテレビが死ぬ。これはまぁ特別ぼくは困らないけど。4日後に時計の分針が死んで、けど中途半端に秒針は生きてて一見ちゃんと動いてるからぼくは時計はまだ大丈夫と思い込み、その小憎たらしいフェイクのせいで約束に5時間くらい遅刻する。5時間はもはや遅刻というレベルで括れる話じゃないのではないか。オレなら15分待たせた奴は拳だぞ、と、五月にある人は言った。


 5日後にコーヒー・メーカーが死ぬ。淹れたてのコーヒーが飲めなくなる。これは致命的だ。困るどころの騒ぎじゃない。6日後にパソコンが死んで、もう数ヵ月も前の「地震が長くて怖いよー」といった趣旨のメッセージを最上段に残したままサイトの更新が一切途絶える。勿論、例えばの話だけれど。7日後にコンタクト・レンズが死ぬ。俺は何も見えなくて外に一切出れなくなる。俺は世界と断絶される。眼鏡男子ブーム? 知るかそんなもの。8日後に消しゴムが死ぬ。なんら困らないので爽やかにスルー。ところで消しゴムが死ぬとはどういうことか。消しても消しても消えないゴムってなーんだ? そんなの謎々じゃないか。下ネタに属する回答を即座に思い浮かべてしまった連中は全員、9日後に死ねば良い。俺は10日めまで生き延びるが、11日後に残っている世界は今よりずっと灰色だ。俺は12日後の世界の上やら脇やらで赤ん坊のように深々と眠りつづけて15時間経ったのにまだ起きない。よっぽど疲れていたんだね、ていうか今これ書いてる精神がね。