夏の花

 そういや俺が今まで26年でいちばんいっぱい聴いた CD ってなんだろ。と、ふと思って遡るに、まぁそんなの厳密に判定できるわけじゃないけど、心象で「おそらくこれじゃないか」っていうのが

 空の飛び方 スピッツ空の飛び方


 ものすごい昔(id:amn:20040521:p2)に、スピッツでぼくのフェイヴァリットは 5th 「空の飛び方」と 8th 「フェイクファー」って書いたんですけど、その思いは今も変らなくて、けど、もし「あえてどっちか選べ」っつわれたら泣く泣く「フェイクファー」切らざるをえません。「フェイクファー」も(メンバー・インタビューとか読むと、けっこう煮えきらない語られ方してるけど)ぼくはすごい傑作と思うし大好きだけど、「空飛び」は決定的というか別格。このアルバムにぼくが心を奪われてから、もう12年も経つんだって! すげー。

 ぼくが初めてスピッツを聴いたのは「伊集院光のOh! デカナイト」の主題歌として On Air された「スパイダー」で、初聴 → 翌日、速攻シングル購入 → そのまま全アルバム速攻コンプ ・・・という流れ。あんま音の良くない AM の、ノイズ混じりに聴いても「スパイダー」は電撃でした。この曲でスピッツに出会えた、という事実はぼくん中でけっこう重要で、勿論それが「ロビンソン」であれ「空も飛べるはず」であれ、やっぱりスピッツには同じくらいハマってたろうけれど、あの「もっと遠くまで君を」の声とメロディに死ぬほど打たれた衝撃はどうしたって忘れらんない。


 「スパイダー」はシングル・カットだったんで(カップリングは「恋は夕暮れ」・・・リリース済みのアルバムから2曲そのまま切ってアイテム化、なんて荒っぽい売り方が、まだわりと普通にアリだった頃の話ですね)、その後すぐアルバム買って事実上、短冊形のあのジャケットを捲ることさえ殆どなくなっちゃったけど、ぼくを「空の飛び方」に導いてくれたこのシングルはやっぱり今でも宝物です。

 そして1994年11月、中学2年生、14歳の俺少年はどっぷり空っ子と化します。他の5枚も全部好きだし、特に「惑星のかけら」が超好きでさんざん聴き倒しましたけど、とはいえ再生率トップは断トツ「空の飛び方」で圧倒的。心の殿堂入りですね。


 さらにもうちょい遡ると、「空の飛び方」へ至るまでにぼくの辿ってきた中で、これ一生でいちばん聴いた回数多いんじゃね? ていう候補が3枚あって、チェッカーズI Have A Dream」と B'z 「Run」と Mr.Children 「Atomic Heart」なんですけど。チェッカーズはね、まぁ生まれて初めて買っ(てもらっ)た CD で、つまりその時点で他に何も持ってないから、ひたすらそればっか聴いてたんで。人生初 CD がなぜチェッカーズか、についてはそっとしといてください。

 B'z は小6〜中1くらい死ぬほど聴きました。生まれて初めて「このグループに死ぬまでついてく!」って思いましたね。完全にハマった。なお、ここでは「グループ」ていう言い方が俺の青さとリンクしています。つか当時 B'z 無敵だったんで。「In The Life」と「Run」聴いてない奴とか人間じゃねー、くらい思ってました。ぼくが間違ってたかもしれません。


 んでミスチルが中2〜3です。わりとスピッツと時期的に被ってたと思う。「クロス・ロード」と「イノセント・ワールド」が、ちょい「空飛び」より前だったかな。ぼくは短パンを投げ捨て、桜井さんに死ぬまでついてこうと思いました・・・ていうのが、だいたい「俺ヒストリー 〜中学生編〜」の概要です(この後、高校で JAPAN 系ロックに傾倒 → 駿台時代、御茶ノ水駅前 Disc Union の影響でエモやらメロコアに熱病 → 大学1年めの Fuji Rock でいろいろまとめて覚醒・・・とつづきます)

 振り返ると、チェッカーズ(は自分でも良くわかんないけど) → B'z → ミスチルスピッツ、て、お前どこの一般市民様ですか、という。歌番組とオリコンがつくってくれてましたぼくの主体性。ぼくが「中学ん頃 Hip Hop ばっか聴いてた」だの「ピストルズでパンクに目覚めた」だの「ナンバーガールは小学生の頃、大好きでした」っていう発言を、必要以上に敵視する理由がこれです。ローティーンでそんなカッコイイもん聴いてんじゃねぇ! という Shit にまみれた恋のストーリーの裏返しなわけですよ。ぶっちゃけ羨ましい。俺も「中学んとき No Wave と Free Jazz しか聴く気しなくてさー」とか言ってみたい。けど当時の俺学会は「J-pop 以外の音楽とかありえなくね?」論で完全に席巻されてました。友達ん家でエアロスミス聴かされて「おい、これ B'z のパクリじゃねーか!」と喝破した14歳の俺がいます in my head 。


 閑話超休題。遡った勢いで話ズレすぎました。えと、つまり「空の飛び方」以前にも激愛聴盤が何枚かあった、という話・・・のつづきですが B'z しかりミスチルしかり、或いは他にもいくつかあった気がするけど「たぶん俺、これ一生聴くわ」って思って聴いてた CD の 99.9% は今もう手許にすらなくて。一生どころか10年もってないわけで、けど俺はスピッツをもう12年も聴きつづけてて、今「空の飛び方」聴いても、初めて「スパイダー」聴いた日の衝撃をくっきり追体験できるくらい新鮮で、同じ感動があって。けっこうこれってすごいと思うんですよね。色褪せなさすぎ。

 チェッカーズの11歳から数えて、もう15年、ほんと信じらんないくらい多くの音楽と出会い、別れ、すれ違い、を繰り返す中で「どんだけ「今」死ぬほど好きな CD だって、いつか飽きる日がくる」経験も数知れずして、でも現時点で少なくとも12年・・・音楽聴きだしてからの年月の、なんと80%もの時間を共にしてきたアルバム。すげーよ、やっぱ。よくよく考えると、そういうアルバムに出会えたのじたい、ちょっとした奇跡みたく思えてくる。


 12年の間、ころころ変るぼくの音楽の好みにまるで合わせてくれるみたいに、様々な表情を小出し小出しに、ゆっくりと、じんわり「空の飛び方」はぼくに浸透しつづけてきた。初めのうちは「スパイダー」「青い車」「空も飛べるはず」のシングル曲や「不死身のビーナス」とか、わかりやすいスピーディなのを多めに聴いてたように思う。それから「ヘチマの花」の、ハーモニーの綺麗さに打たれた。もう少しして「ラズベリー」の可愛さにたまらなく虜になった。「迷子の兵隊」〜「恋は夕暮れ」の、わりかし地味な(と、たぶん思われてる)ラインがすごく好きになったのはけっこう後になってからだけど、今もう「迷子の兵隊」のサイケっぽい感じや、「恋は夕暮れ」のラッパに聴こえる夕暮れ感の幸せは、なくてはならない大好きな2つ。

 そして「サンシャイン」・・・この曲を心底ぼくが愛するようになったのは、ずっと後だ。正直言って最初は「なんか最後の地味な曲」程度しか思ってなかったし、もっと正直に言えば「青い車」まで聴いたら、飛ばして「たまご」に戻ったりしてた。さらにもっと正直に言えば、当時ぼくはウォークマン(CD じゃなくテープの)で通学時間に音楽を聴いてたんだけど「空の飛び方」を落としたテープに「サンシャイン」だけ入れてなかった・・・って、さすがにこれひどすぎんな扱いが。でも46分のテープに「青い車」までの10曲、プラス「猫になりたい」を入れるとちょうどぴったりだったんで仕方ない。猫に弾かれてリング・アウトしてた。ごめん。


 そんな不遇すぎるにも程があるこの曲は、けれどいつしかぼくにとっていちばん大切な曲になった。きっかけは良くわからない、というか、たぶん特にない。ほんと「いつのまにか」としか言いようのない自然さで、気づいたら「絶対に外せない曲」んなってた。おそらく大学入って以降なので、「空の飛び方」聴きだして最低6年は経ってからだ。わけわかんないほどの地味さで、信じらんないくらいゆっくりと、ぼくの中へ「サンシャイン」は、来た。それ以来、ぼくはこの曲がスピッツの全部ん中でいちばん好きです。

 ただでさえスピッツは名曲揃いだけど、特に「サンシャイン」は超をいくつ付けても足りないくらい弩級の名曲だと思う。気だるい午後の、少し眠くてぼーっとする気分の、やけに乾いて見える陽射しが、やたら眩しくて目を細めてしまうような、そして、どこかたまらない切なさ・・・て文字にしても良くわかんないけど、そういう感覚の全部が5分26秒に詰まってる、というか「そのもの」と言ったって良い。