Summerdays 、1


 きっかけは、些細な偶然のいくつかの重なり。


 2004年12月17日。その日、恵比寿リキッドルームで「Dance Hall X」というイベントがあった。Date Course Pentagon Royal Garden大友良英Sakerock赤犬ロレッタセコハンShiro The Goodman・・・という顔ぶれに、かなり食指を動かされる。その頃ぼくは卒論提出1ヵ月前、というなかなかきわどい状況下だったが、だからこそ、とかわけのわからない論法(にもなってない論法)で自分を納得させたがっていた。実際のところ、この時点で卒論は1文字も書かれていなかったわけで「だからこそ」も何もない。完全なる、ただの逃避。

 同日、下北沢 ERA で「KILL yOUR WINTER!!! FESTIVAL xxx2004」というイベントがあった。「NATSUMEN presents」と冠された初のイベント。共演は Rebel Familia、界。BOAT (の、特に後期)が好きだったので NATSUMEN の名前は勿論知っていた。音も聴いてた。かっこいいと思った。だけど「どうしてもライブ見てぇ!」ってほどには入れ込んでなかった。恵比寿の豪奢さと比べれば、まぁ黙殺して妥当だろうな。


 そしてぼくは下北沢駅の改札を出る。意味はない。あんまり自分でもわからない。ただ「なんとなく今日はリキッドって感じじゃねぇなー」とか、そういう漠然とした・・・というより適当な、単なる気紛れ。振り返れば、その気紛れが全ての始まりだったわけだが、とはいえそれを「必然」なんて大仰に言うのはおこがましくて気の引けるくらい、それは適当で、偶然の選択。もしくは偶然にも満たない運命。


 改札を出たところでメール、「チケット売り切れてるよ」。マジすか。とりあえず ERA へ。あ、ほんとに売り切れてる。どうしよう・・・と思うより先に、まず「KILL yOUR WINTER!!!」を買う。1月12日に発売されるシングルの先行販売。入口んとこで売っていたので、チケットなくて中入れなくても普通に買えた。で買って、改めて、どうしよう? CD だけ買って帰るのもなぁ・・・。かといって今さら恵比寿へ向かう気はもうしない。つーか、ここまで来た以上やっぱ NATSUMEN 見たいし。でも売り切れ。あー。で、とりあえず足掻いてみよう、と思う。

 前日深夜(というか当日早朝)に聞いた話。その時点でプレイガイドの販売はもう終ってるけど、メンバーの蔦谷好位置さんのホームページがあって、そこからメール・フォームでお願いすれば当日正午まで受けつけるよ、とのこと。ぼくもそれを見ていたのだが、まだその時点で 下北沢<恵比寿 な気分だったため華麗にスルー。万が一不等号が逆転しても、どうせ売り切れとかねーだろ、という読みもまた甘かった。果して、不等号は万が一に逆転し、チケットはほんとに売り切れた。


 さて、目の前の CD 物販テーブルにアインさんがちょこんと座っている。さっきぼくが買ったときは別の人だったけど、今さっき交代したみたい。ちょうど列も途切れたところ。話しかける、「すいません。蔦谷さんていらっしゃいます?」
「蔦谷さん・・・?・・・・・・ああ、蔦谷コーちゃん! コーちゃんがどうしたの?」
「えーとチケットのことなんですけど。ぼく、蔦谷さんにメールでチケットお願いしてあるんですが、なんか取り置きされてないみたいで」
 まぁ嘘なんですけど。お願いしてないんですけど。スルーしましたけど。
「えーほんと? ごめんねー、今コーちゃん上いるから、ちょっと呼んできてもらうから待ってて」


 アインさんすげー親身になってくれる。超良い人。可愛い。つーか全然関係ないのに「ごめんね」とか言わせちゃってひどい罪悪感。ほんとごめんなさい。そんでアインさんがスタッフの人に、蔦谷さん呼ぶのを頼んでくれる。
「今コーちゃん来るから、ちょっと待ってね」
「わざわざすいません・・・」
「いいよー。だって入れなかったら大変だもんね」
 わーほんと超良い人。蔦谷さんが来るまでの間、しばらく雑談。「そうだ、もう CD 買ってくれました?」「買いましたよーさっき」「ありがとうございます!」「聴くの楽しみです」「いっぱいあるから2枚でも3枚でも買ってください!」・・・とかそんなの。つーか、いちいち笑顔が超可愛い。反則だと思います。まぁ今は俺のが明らかに反則なわけですが。


 なんかイケメンが下りてくる。「おーアインちゃん、何?」「あ、コーちゃん来たよー」でバトンタッチ。この爽やかイケメンが蔦谷さんか。ごめんなさいを心ん中で何度も呟きつつ、事情(というか嘘)を説明する。「直前で申し訳ないんですけど、たぶん正午ギリギリくらいにメール届いてるはずなんですよね・・・」とか言う。しれっと。俺ひでぇ。そしたら蔦谷さん「うわーゴメン! ちょうど家出ちゃって確認できてなかったわ。ほんとゴメン!」

 ・・・って、ちょっと何この良い人軍団は。2人とも親身になってくれすぎ。もうこの時点で俺はかなりこの人たちが大好きになってる。そんで結局、蔦谷さんが「俺の枠で来れなくなった奴いるから、そこに彼いれてやって」と ERA のスタッフさんに口利いてくれて、めでたくぼくの詐欺は成功する(勿論チケット代は払った。タダで入れてもらったのではないです、念のため)


 これが、ぼくと NATSUMEN の(直接の)ファースト・コンタクト。アインさんと蔦谷さん。そんでまた蔦谷さんがね、イベント始まった後も Rebel Familia や界を見にフロアへ来るんですけど、ぼくに悪いことしたと思って気ぃ使ってくれて、すれ違うたびに「ほんとゴメンなー」とか「おう、楽しんでる?」とか、いちいち声かけてくれたりして。ほんと死ぬほど良い人。完全に俺が悪いんですけど。でもそのときは正直、罪悪感より「なんて良い人だ!」っていう感動が圧倒的に強くて、だからぼくは NATSUMEN のライブを初めて見るより、もう先に「ファン」になっていたんだった。