第二話
りん、と風鈴が鳴った。
夏である。ぼくとアキコちゃんは、これから夏祭りへデートに行く約束をしている。
「ねえちょっとー、誰かいる?」
アキコちゃんが言い終わるか終わらないかのくらい颯爽と3人の部下が現れた。風鈴はただの風物詩に飾っているのでもなくて、呼び鈴を兼ねているのだ。にしても早い。なぜって1分以上待たせると「遅い」っつって殺されるからね。部下の人も命懸けである。お疲れ様デス。
「はっ組長、お呼びでございましょうか」
「こいつ片しといて。あと部屋の掃除もヨロシクっ☆」
と、アキコちゃんは惨殺死体の頭部をごつんと踵で蹴りつけ、
「もー、バカのせいで関口くんとの大事なデートが押しちゃったじゃんよう。バカ、ほんとバカ」
と、さらにズドッズドッズドッと踏みつけた。3度めのズドッで顔面がぐしゃりとつぶれて右の眼球が飛びだした。ちなみに左の眼球と鼻と唇と両耳は、スイッチ入ってたとき日本刀で抉られ済みなのですでにない。
なぜデート前にこんな惨殺劇を繰り広げなくてはならなかったかというと、この男(というか元男だったと思われる今は赤い塊)が何やら大変な不義理を為し、どうしても今日中に、それも組長直々に落とし前をつける必要があったとかいうことらしい。そのへんあまり深入りしたくないので詳しい話は知らないけれど、まあぼくはぼくでスイッチ入った状態のアキコちゃんを見れて嬉しい、得した気分だったりする。普通のアキコちゃんも可愛らしくて好きだけど、修羅のアキコちゃんの美しさはやはり格別で特別で、何度見ても心を打たれずにいれない。
「ごめんねーほんと関口くん待たしちゃって」
「いいよ全然。それよりシャワー浴びてきなよ、アキコちゃん花火見たいんでしょ。なら6時半には出ないと」
「わっ、そうだった! ごめん超急ぐ! 速攻で血落としてくるから待ってて、すぐ! 行ってくる!」
とアキコちゃんはマンガみたいにびゅーんと飛びだしていって、部屋にはぼくと、赤い塊と、塊を片づける部下たちが残った。部下たちはパッと目配せをし合っただけで一瞬で役割を分担し、二瞬めには、3人のうち2人が塊を外へ運びだし、残ったひとりが飛び散った血や脳漿や、千切り捨てられた鼻とか耳を掃除しはじめた。見事な手際の良さ、見事なチームワークである。雑巾に血を吸い取らせている部下の人に「何かお手伝いしましょうか?」と言ったら「結構です。つーか殺されます私が。お気持ちだけ頂戴いたします、ありがとうございます」と丁重にお断りされました。
「・・・なんか、大変ですよね、いろいろ」
「ええ。でも組長はすごい方ですから」
「さんざん自分で惨殺しといて、超さわやかに「ヨロシクっ☆」とか言ってましたね」
「ええ。私には「血痕の一滴でも拭き残しとかあったら処刑だからネ☆」って聞こえました」
「処刑ってそれマジなんですもんね」
「ええ。笑えないですよね」
と言って、部下は削り取られた鼻を拾い上げ、赤い液体の入ったバケツへ放り込んだ。次に、削り取られた左耳を拾い、ぴたっと一瞬動きを止めて、血の滴る耳をまじまじ見つめて「笑えないですよ・・・」ともう1回言った。