フェス考 ― 温泉玉子編


 今や夏といえば真ッ先に「音楽フェス!」って反応する人数も相当多いんじゃないかと思われるくらい百花繚乱の日本夏フェス音楽模様。中でも代名詞といえばやはり Fuji Rock で、次いでサマー・ソニック、ロック・イン・ジャパン、ライジング・サン・・・これらを規模や認知度的に「4強」と見なして良いでしょう。


 個人的な話ですけど、ぼくは98年に1年間浪人して、99年に大学へ入りました。このタイミングって実は結構大きくて、というのも99年といえばフジ・ロックが(初年度97年の天神山、翌98年の東京・晴海埠頭を経て)初めて、現行の苗場で開催された年であり、また北の大地・北海道にてライジング・サンが旗揚げされた年でもあります。そして翌2000年にはサマー・ソニックが従来の単発イヴェントから現行の「都市型フェス」へ大きく変貌を遂げ、ひたちなかにてロック・イン・ジャパンも初開催。

 つまり現「4強」の夏フェスどれにとっても、この99〜00年という2年間が大きなターニング・ポイント、或いは発祥年となっています。そしてこの2年間を(不幸にも2年とも・笑)ぼくは大学1年生という、金もまぁまぁ自由に使えて(家賃が月3000円の学生寮にいたのも大きい)時間は単価いくらで誰彼に売り飛ばしたいほどあり余っている・・・そんな状況で過ごしたわけです。そして(ちょうど前98年、浪人中の身ゆえ晴海のフジ・ロックを諦めざるをえなかった反動もあって)ぼくは2年間、各地の夏フェスを片っ端から回りました。


 99年には苗場初上陸のフジ・ロックと、はるばる北海道まで(青春18切符で丸2日かけて・笑)北上し参戦したライジング・サン。00年には引き続きフジ・ロックと、富士急ハイランドでサマー・ソニック弩級の台風に直撃されたロック・イン・ジャパン・・・というフェス三昧の夏。

 それぞれに思い入れがあって書ききれませんが、例えばライジング・サン99は奇跡のようなライン・アップがまず圧倒的に凄まじかったし、また北海道旅行の行程そのものが1大行楽だった(憧れの雪印パーラーに行けたりとか。3日で4回くらい通った・笑)。ジェット・コースターの走り抜ける隣を薄汚いTシャツで、ライヴ目当てに動き回ったサマー・ソニック00も(ある意味)感慨深いし、何よりこのときはフレイミング・リップスのライヴがむちゃくちゃ良かった。初年度に台風直撃で大惨事という、数奇にもフジ・ロックと同じ轍を踏むこととなったロック・イン・ジャパン00も、すごく楽しみにしてた Ajico中村一義が中止で残念だったのは勿論だけど、その直前。全身びしょ濡れになりながらイエロー・モンキーの「パール」を絶唱(というか絶叫)したのは未だ最高にハイな思い出・・・などなど。


 と、こうして思い返せばどれも楽しかったし大切な記憶で、決して無駄だったとは言わないけれど、それでもぼくが当時から現在に至るまで。未だ毎年欠かさず日参、ならぬ年参しているのはフジ・ロックだけです。99年からなので、今年で早や6回め(費やした金額を概算すると気が遠くなりそうなので止めますが・笑)


 なぜか。と考えるに、やはり「フェスティバルに於いて、最も大切なのは何か?」って問いに尽きると思う。これは至極当たり前のようで、けれど忘れてはならない大切な話。そんなの音楽フェスなんだし音楽に決まってんじゃん・・・って意見もそりゃあるだろうし、間違ってるとも言い切れないけど、ただぼくの意見としてはやはり No で。

 魅力的な音楽は勿論必要。けどそれはあくまで前提というか、それだけあっても必ずしも「心から楽しめる」フェスティバルとは限らない。その魅力的な音楽を、十ニ分に楽しめる「魅力的な環境」があって初めて、ぼく(ら)はそのフェスを単に「好き」とか「楽しい」を超えて、本当に「愛する」ことができると思う。

 ステレオタイプな表現をすれば、音楽は必要条件。環境は十分条件。で、その2つの両立こそが「最高のフェス」を形づくる必要十分条件・・・的な感覚。その意味でサマー・ソニックとロック・イン・ジャパンは、まだ「何か」が決定的に欠けていると思う。思うというか、4年前に思った。どちらもそのとき(00年)が初だったし、1年めダメだったからその先もずっとダメなんて言うつもりはない。毎年少しずつ改善し、成長しながらどちらも今年を迎えたとは思う。けどやっぱり、まだ完全じゃない。足りない部分が残ってるんじゃないかな・・・っていうのは傍で見てて感じるし、参加者の声からも伝わってきます。


 「本当にフェスティバルと呼べるのは、グラストンベリーとフジ・ロックだけだよ」というのはケミカル・ブラザーズの弁ですが、これに倣ってぼくなりに、一通り「4強」全部を経験したうえで言えば「本当にフェスティバルと呼べるのは、日本ではフジ・ロックとライジング・サンだけ」って思います。なんか偉そうな言い方ですけど。

 (※ ライジング・サンも2回め以降行ってないけど、それは単に「やっぱ距離的に遠すぎる」っていうだけの問題で、さっきの言葉を使えば「必要十分条件」をきちっとクリアできてる良いフェスだとぼくは思ってます。ライン・アップも毎年完璧だしね・・・特に今年ってば!)


 別にサマソニやロック・インをバッシングしたいわけじゃなくて、頑張ってほしいと思うし、どっちのフェスにも良い点だってちゃんとある。例えば、こないだ書いたばっかりだけど(id:amn:20040809)ぼくは今年のサマソニの、東京のみだけど新設されたビーチ・ステージに今後の可能性を見れたし、ロック・インは最近を一切知らないけど、少なくとも00年のとき思ったのは「トイレがむちゃくちゃ多くてすげー便利」ってこと。

 フェスに行ったことのない人は「全然そんなのメリットとしてショボいじゃん!」って思うかもしれないけど、トイレの問題ってフェスに於いてすごい重要ですよ。フジ・ロックも今年またちょっと増設されて、あと人数が緩和されたぶん今年は快適だったけど、トイレに関しては去年までずっと不十分だったし。ロック・インは1年めからその点がクリアされてたし、それは未だにそうらしい(と聞きました)んで、これはポイント高いと思う。


 極論を言ってしまうと「敷地内でキャンプができない」時点で、サマソニとロック・インはやっぱり、どうしても限界があると思います。勿論フジやライジング・サンでも、ホテルや宿を取って楽しむ人もいっぱいいるし、「そんなの楽しみ方として間違ってる!」なんていうのはおかしいです。楽しみ方は人それぞれで良い。

 ただ、それは裏返すと「選べない」ってことで。ぼくなんかも結構そうなんですけど、「テント張ってキャンプ生活して、音楽以外ロクに何もないような場所で、3日3晩音楽漬けの日々を送る」ことそのものに重点を置いたり、他にない魅力を感じてる人ってすごい多いと思うし、そういう人が集まることで(それ以外の、ホテルや宿組の人らも巻き込んで)フェス全体の雰囲気が柔らかくなるというか・・・「オーディエンスがフェスティバルと一体化する」的な効果って大きいんですよね。で、フジ・ロックを愛して止まない人たちは、その雰囲気とか一体感にこそ何より魅かれて、毎年足を運ばずにいれないんだと思う。


 簡単な話で、フジ・ロックには「早割」っていうチケットがあって、出演者の一切発表されてない3月とか4月の段階で、なのにきっちり1万枚(※今年はチケット制の変更に伴い5000枚でした)が毎年ソールド・アウトする。で、同じ「早割」が他のフェスにあったとして、たぶんライジング・サンもソールド・アウトすると思うんだけど、じゃあサマソニとロック・インは? っていうと正直「誰が出るかまったくわからないんじゃ、さすがにちょっと踏み切れないなぁ」って二の足を踏む人が殆どじゃないかな。

 いやわかんないけどね。みんな買うのかもしんないけど。このへん全部ぼくの勝手な推測(と偏見)ですので。けどまぁつまりそういうことです。言い換えれば、フェスとして「愛されてるか」「信頼されてるか」ってこと。


 いろんな人の、いろんなフェスのレポートを読んでて思うのは、サマー・ソニックは「このライヴが良かった」「これはイマイチだった」とか、そういうのがやっぱりメインで「フェスとして云々」の話は殆ど出てこない(か、もしくは問題提起系。例えば id:crossage:20040809)。一方、なぜかはてなダイアリーとやたら親和性の高いロック・イン・ジャパンは逆に、ライヴの感想って予想以上に少なくて、どっちかっつーとリファ飛ばし合いメインのオフレポっぽい傾向。

 音楽フェス行ってライヴ・レポ書くのは至って普通だし、それは全然良いと思うし(ぼくも読んでて面白いので)せっかくみんなの一堂に会するフェスティバルの場を好機と捉え、オフ会的に楽しむのも同様に全然アリなんだけど(こっちは読んでて面白いってより、むしろ羨ましくなるだけですが・笑)そこらへん如実に、各フェスの特徴なり雰囲気が滲んでるなぁ。と思いますね。


 フジ・ロックだとライヴの感想系あり。オフレポ系あり。キャンプ関連の苦労話(強風でテント吹っ飛びました、など)あり。あと食事関連の話題がなんかやたら多くて、読んでて微笑ましいというか・・・(笑。今年はメロンパンの大好評っぷりがすごいですね)

 そしてぼくがこれを書いている今まさに、北海道ではライジング・サンが2日めに突入しているわけですが、それについてはデスク・トップの前で涎を垂らしつつ(ご飯じゃなくてライン・アップにね)参加者の皆さんのレポートを待とうと思います。


 ・・・さて。案の定「少々」のはずのフェス考が膨大な長さになってしまったため(すいません)ライヴ・レポートはまた後ほど。いつになるんだよっつー話ですよねほんと(てゆーか覚えれてるかが問題)

 相変わらずフジ・ロック贔屓全開な文章であれですが念のため。以上はあくまでぼくの私見であり、フェス全体を俯瞰して見た考察に過ぎませんので、参加者個人個人の「自分なりのフェスの楽しみ方」にケチつけようとかそういう意図はありません。フジ・ロックを「そこまで楽しくなかったよ」って思う人だって絶対いると思うし、また「けど俺はサマソニ最高だったぜ!」っていう人はそれで全然良いと思う・・・てゆーか、それがいちばん大切。結局は「いかに自分が主体的。能動的に楽しむか」ですから。