ずるり / ずれてなどいない

amn2004-12-07

from sg. 『ずれてなどいない』 00


 ずるりの音楽の根底には、常に肥大するエゴへの警告が強く込められているように思う。

 もっともデビュー当時のずるりに、一聴してすぐ伝わるだけの急進性なり社会性が備わっていたわけではない。そもそも彼らは、カート・コバーンより深い絶望を、トム・ヨークよりネガティヴに(といってもその程度のネガティヴさは、90年代以降の自称ロックに腐るほど存在するのだけれど)、山口隆よりトチ狂った風情で、吉野寿よりレンズの厚い眼鏡をかけて歌い上げるバンドだった。


 それだけでも十二分に「エモーショナル」と形容されうる圧倒的な存在感を、彼らは早くも黎明期より身につけていた稀有な存在だったわけだが、その肥沃な土壌をベースに、次なるもう一歩を踏みだした傑作こそが、この第6弾マキシ・シングル「ずれてなどいない」だったと言えるだろう。

 自らのバンド名をそのまま正面切って否定し、過去との決別を高らかに宣言してみせたタイトルからも窺えるように、ここで歌われるのは「過剰な自己愛による自己に対する盲目化」への嫌悪、そして「自分が何者かはわからないけれど、それでも生きていく資格はあるんだ」という強烈なメッセージに他ならない。ぼくらはそこにヴォーカル・ピシ田が、人間として一回り強く、逞しく成長する過程を見て取れるのみならず、追体験することさえ可能だ。


 とはいえ、しかしジャケットを見れば明らかなように、やっぱり彼らはどうしようもなくずれまくっているのであって、したがって以上に述べた内容は全て理想論に過ぎず、実際には途方もなく空回りしてしまっている。カップリングに収録された6曲もの(!) Venom のカヴァーも含め、結局のところアティテュードというか、誰に向けたシングルなのかが全くわからない。現世とは没交渉の1枚。 (土屋)