3


 フジ・ロック終了後の2002年、夏。オランダ(アムステルダム)に1ヵ月滞在。アムステルダムは(というかヨーロッパはどこも基本的にそうかもしれないが)午後6時を過ぎると途端に街全体が閉じる。それはもう片っ端から「はい今日の営業終了でーす」ってなる。5時50分に本屋に入ろうとしたら、店のオヤジに手で×ってやられて追い返されたり。6時過ぎても開いてる店といえば飯屋かコーヒー・ショップくらいしかない。あと飾り窓もやってんのかもしれないけど行ってないのでわかりません。


 よって基本的に夜は暇。幸い宿泊先(つーか親元)にパソコン設備があったためインターネットばっかしてた。DCPRG を持ってきてたんで、ある日「そういえばこいつらって何者だろう」と興味本位で調べてみる。そんで「swim」に出会う。とてつもない衝撃。完全に打ちのめされる。菊地ホリック第2フェイズへ突入。それから毎晩、深夜までログを読み漁る日々がつづく。で翌日、寝坊して昼過ぎに起きる。街へ出てもすぐ6時になる。家に戻って「swim」を読む、の繰り返し。せっかくオランダまで来て何やってんだ、と今んなっては言う話だけど、でもその頃は全然それで良かった。引きずり込まれるように延々何度も読み返した。

 オランダはだから直接には無関係だけど、でも行かなければ今まで通りネットとかしないで寮でわいわいやりながら夏は終っていただろうし(それはそれで楽しかったし好きなんだけど)行って良かった。おかげで菊地成孔を知る。ようやくナルキチじゃないことが判明。遅い。ちょうどペン大の新規生徒を募っていたので興奮ぎみに衝動的な申し込みの文面を送る。オランダ滞在の最終日に、了解の意の返信を頂く。ハノイでの偶然の出会いから8ヵ月、アムステルダムにてその門下に入る。


 余談ですけど、ぼくが初めてホーム・ページをつくったのが2002年の10月で、つまり帰国後すぐってことで、つまり露骨に影響されまくっているんであって、この頃まだパソコン持ってなくて隣室のYくんに借りてつくったんだけど(そのまま他人のパソコンで半年間、毎日更新しつづけた。迷惑だったろうなぁごめん)だからインターネットに於いて「swim」はぼくの原点であり、未だその模倣の域を抜けれてない。句点の打ち方と(笑)はあくまでその端的な一例。そういえば「swim」読むまで、ぼくは(笑)がとにかく嫌いで「一生使うかこんなもん」って思ってた。


 オランダ滞在中に最も聴いた曲が「Mirror Balls」で、これはそのままぼくが「2002年に最も多く聴いた曲」にもなった。それまでいつも飛ばしてた「Mirror Balls」を、なぜかこの頃大好きになった。理由とかきっかけは覚えてない。というか単に聴き飛ばしてたわけだから(笑)ちゃんと聴いてみたら好きでした。ってだけの話で、特になくて普通かもしれない。昼過ぎんなって中心街らへんへ出かけて、6時になると店々が閉じ、その寝静まった街をふらっと歩きながら。とか、それからトラム(路面バス)で帰る車内で「Mirror Balls」ばかり聴いていた。だから今も「Mirror Balls」を聴くと、ぼくはアムステルダムの真っ暗な街や風景を思いだすことが多い。そういうイメージ。「泣きたくなるような安っぽい話し」っていう旧題が、まさにそんなイメージをそのまま想起させてくれて好き。街の灯りが消えていく景色に捧ぐゴスペル。いちばん好きな曲。4点。