オリジナル・ラヴ、を略して「オリラブ」とか呼んでしまう罪深き旧人類が絶滅し(たと、おそらく思われ)て久しい昨今、新たに私の呈示したい呼称――それが「オジル」であります。漢字で「男汁」もしくは「雄汁」と書く。響きに多少(?)の難は否めない反面、字面的には、それを補って余りある完璧さではないでしょうか、男汁。

 「お前さー聴いた、男汁の新譜?」「聴いたよ。今回もまた、とてつもなく濃ゆいの滴ってるな」「漲ってるよな。男の汁が」「そして愛だよな」「愛、入ってるな」・・・そんな会話が、例えば貴方がスターバックス・ラテのほろ苦い甘味をゆったり味わっている店内の、隣から聞こえてきたらどうですか? 汁とかなんとか。俺なら絶望的に最悪ですね、よって男汁は撤収。


 オリジナル・ラヴの新譜「キングスロード」はカバー集です。なんか古いのばっかの。そしてカバー集を評する際の必須ワードに「これはカバー・アルバムであると同時に、それ以上にオリジナルだ!」というのがありますが、では仮に、この常套句が諸般の事情で使用禁止とされた場合、代替表現として我々は、例えばこのように言い換えて良いでしょう。「キングスロード」は、レコード・ラックの奥のほうから引っぱり出してきた過去の名曲群を、田島貴男が豪快に「がはは」と笑いながらボディスラムよろしくブン投げて叩きつけて捩じ伏せたようなアルバムだ・・・と。


 いや全然「・・・と」じゃねぇよ。な気もするけど、まあ良いやとにかく濃ゆいですね今作も。なんなんでしょうこの人は。ほんと感服するしかない。男汁・・・は撤収したので「エキス」に言い改めますけど、今回もまた悪酔いしそうなほど大量の男エキス分泌しまくってるね。噴出の凄まじい勢いで毛穴が切れそうなほどです(イメージ)

 ほんとにもう、ここ数年の田島貴男の充実っぷりたるや「脂が乗ってる」って月並みな言い方では全然追っつかないレベルの濃ゆさと凄まじさなので、その粘りけをより滲ませるべく汁だのエキスだのギトついた表現を試みた俺の創意工夫を皆さんわかってほしいところですが、今回もね。すごいすよ。メロディーこそ田島節じゃないけれど、全体の濃度はなんら薄まっても失われてもいない濃縮果汁還元100%な仕上がりです。


 ぼくが初めて聴いたオリジナル・ラヴのカバー曲っていうと(この人、ライブでは昔からかなり頻繁にカバーやってたらしいんですが、残念ながらぼくは未見なので)シングル「Tender Love」のカップリングの S.Gainsbourg 「Eau A la Bouche (唇によだれ)」で、これ初めて聴いたとき、まだ体内の田島ワクチンが不足ぎみだったぼくは、あまりの気色悪さに爆笑してしまった記憶がリアルにあります。あれは度肝を抜かれました。けれど妙に中毒性があったのも事実で(というか単なる怖いもの見たさだったかもしれない)何度も聴き重ねていくうち、やがて「気色悪い」が「色気」へ脳内変換される頃には完全に病みつきんなってたな。強烈でした。というか過ぎました。

 何も皆さんにもこの曲から入門しろ。なんて到底ね、言えませんけど、もし田島貴男について「長くー甘いー口づーけを交わそうー、の人」と「ほぼ日で年末にウハハハハハ! って笑ってる人」という2つの認識しか持っていないなら、ほんと勿体ないからとりあえず近作を聴いてみてください! とは声を大にして言いたいです。あまりの濃ゆさゆえ完全アウト、な人も中には勿論いるでしょうけど、それはそれでぼくは責任を負いかねますけど、でもこの潤沢すぎるほど潤沢に、熱々に煮えたぎっている成熟(これを成熟と言わずして何と言う)を、ただ素通りで「熱いすねー」って終らせちゃうのは冒涜以外の何物でもありませんよ。

「冒涜、って何に対しての?」

「え? えーと・・・・・・汁」

「さよなら」



キングスロード
キングスロード (2006)




街男 街女
街男 街女 (2004)



踊る太陽
踊る太陽 (2003)



Tender Love
Tender Love (2003、「唇によだれ」収録)