Get women


 またも FF12 に感けてたら瞬間的に1ヵ月が過ぎ・・・たんじゃ全然なくて FF12 は前回の日記を書いた3日後くらいで速攻で投げて、あと27日は適当になんかいろいろしてました。さすが俺。さよならゲーム脳


 異次元の電子空間から解放された私は、心身ともにさっぱりすべく先日、美容室に出向いたのである。可愛らしい小粋な感じの店員さんに、可愛らしい愛想で出迎えられると、彼女が「担当者のご希望はございますか?」と訊ねてくる。実に可愛らしい声で。瞬間的に私は脳内で「あ、ぜひ貴方で」と即答した。それは実に音速をも超える反応速度だったわけだが、あくまで脳内の話である。

 ぜひ貴方で――そんなキラー・タームを現実の声に変換できる偉大なる勇気は、私の全身を1080°搾りきりきったところで一滴たりとも出てこない。無理。絶望的に無理。「あひるの空」を100回読んでも届かない勇気。そんな絶望に裏打ちされた敗北感を全身に浴びながら、さも何事もないかのように俺は言うのだ。さらっと。「あ、特にないです」。あ、じゃねーよ。特にあるよ。キミですキミ。It's you! It's you! 途端に突っ込みが塊となって噴き出るが、勿論、そんなのも脳内の話であり。


 「かしこまりました」と彼女は言う。かしこまるなよ! と俺は脳内で言い、現実の口で「はーい」とか言う。なんだそれは。なんなんだ、この茶番は。この途方のない敗北感の実体はどれだ? そしてフラッシュバックする光景――それは1年ほど前の話だが、俺は勇者を見た。勇者は岸部四郎みたいな、くたびれきった感じのサラリーマンのおっちゃんだった。くたびれきったサラリーマンの岸部四郎は、けれど確かに勇者だった。


 【勇者きしべの偉大なる足跡】

 美容室・店員 「いらっしゃいませ、担当者のご希望はございますか?」

 きしべ 「誰でもかまいませんが女性で」


 打たれた。

 「その瞬間、俺は魂をブン殴られた気がしたね。脳内は拍手喝采の雨霰。なんならファンファーレも吹いたって良い。いや、むしろ吹かせていただきたい。私は彼に「先生!」と抱きつきたい気持ちでいっぱいでした。誰でもかまいませんが女性で――言えないよ普通それは。ぶっちゃけすぎだもん。誰もが心に秘めていて、そして心に秘めざるをえない禁呪を、くたびれたサラリーマンのおっちゃんが「メラ」レベルの気軽さで楽勝に唱えてた。先生すげー。俺は心から彼を尊敬する。そして全然関係ないが先月まで FF に熱狂してたくせに今呪文つったらファイアのフの字も浮かばずに即「メラ」が出てきた俺の飽きやすさはちょっとどうなのよ、という問題も残る(残らない)」


 そして勇者との出会いから1年の過ぎた現在、俺はやっぱり憧れの勇者になれてなくて「あ、特にないです」とか言っちゃうんだ。何事もないかのように「や、自分、髪軽くしたいだけっすから」っぽい、無意味に体育会語なオーラ出しちゃうんだ。ほんとは心ん中、敗北感に打ちひしがれてボロボロで「先生・・・ぼくにひとかけらの勇気を!」とか祈りたいくらい必死なのに、そんな下心の残滓すら表情にも態度にも出せない哀れで臆病な子羊な俺を誰が救ってくれるだろう。悲しいけれど現実だ。現実は、ほんのひとかけらの勇気で薔薇色に変るはずなのに、いつも変えれずその一歩手前の色をしている。

 そしたら案の定、金髪のヤンキーっぽいお兄ちゃんにシャンプーされて「かゆいところありませんか?」とか訊かれて「大丈夫です」とか答えちゃって、今度は柔道部出身的なごついお兄ちゃんにごつごつカットされて「ちょ、引っぱりすぎ! 時々ところどころ痛いんですけど!」とか言いたいんだけどやっぱり脳内どまりで言えなかったりしてたら最後にその「ぜひ貴方で」の女のコに偶然なってシャンプーと簡単にセットしてくれて「な。ほら、やっぱ最後に良いことあるって」とか「最初から指名してたらそれは当然そうなるだけで当たり前だけど、あえてしないことによって最後に女のコに当たれば喜びも一入だろ」みたく力技で自己肯定してみたりするんだけどそんなギャンブル性をそもそも俺は美容室にビタイチ求めてないわけで肯定すればするほどそれは裏側の否定を浮き彫らせるだけで切なくて世の中って切ないよなぁ。


 ・・・といったふうに世の諸行無常を儚みながら、ぼくはこの1ヵ月を生きていたのですが皆様いかがお過ごしでしょうか。暑い毎日になってきましたね。なんともう3日後には Fuji Rock ですよ。いろいろあって未だ No Plan, No Ticket な俺ですけども、おそらく前夜祭〜初日に行く(はず)なので現地で会えたらよろしくお願いします。

 ところで Fuji Rock 初日の7月28日はですね、それと全然関係ありませんがオノ・ナツメさんの「La Quinta Camera」の発売日です。ぺんぎん書房の倒産でしばらく入手しづらくなってたやつが小学館から再発されるそうで、これはぜひ読んでいただきたい。なんつってもシャルロットが可愛いです。て言うと「あー」って言われそうですけど、それはもう仕方ない。納得されるのも辞さない覚悟(が、どの程度のものなのかぼくもよくわかりませんが)で推します。


LA QUINTA CAMERA―5番目の部屋 (IKKI COMIX) オノ・ナツメ/LA QUINTA CAMERA―5番目の部屋 (IKKI COMIX)


 「リストランテ・パラディーゾ」に出てくるようなザ・紳士は約一名しか出てこない(うえにハゲ)ですけど、まぁそのへんの属性とかはともかく、こういうほんのりあったかい話を読んでほんのりできるのは幸せな時間です。そういえば(id:yoshiyoshi:20060716#p3/id:kamuraco:20060725#p1)ぼくの提唱する岸部一徳案が、ものすごい勢いで何もなかったかのようにガン無視されてるらへんが素敵ですね。かっこいいじゃんか・・・あと「リストランテ・パラディーゾ」はタイトルどおりレストランの話だったはずですけど知らない間に「執事漫画」になっててびっくりしたんですけどまぁそれはいいです、ぼくも大人ですし。シャルロットが可愛ければぼくはそれで。

 ちなみにぼくは先日、旧友に「お前はいいかげんヒロインが可愛いかどうかで漫画の良し悪しを判定するのやめたら?」って言われました。良い指摘ですね。ごめんなさい。