ペンギン音楽大学 理論科 フィヨルドランド組


 ペンギン音楽大学(ペン大)は菊地さんの私塾で、フィヨルドランドはいわゆる再履修クラス。つまり理論科統一テスト(期末試験みたくして。ちゃんとやるわけだ)の結果、スネアーズという上級クラスへの昇格にはまだ尚早。と判定された人向けの、要は「留年組」だ。
 なんだその。もうなんかそんなのばっかりか俺は(どっちの大学も2留。という燦々たる記録をぼくはこれで打ち立てた)。


 ・・・のはまぁ良いとして(笑)テストによるクラス再編後の、今日は初回授業でした。

 11名中10名が残留。というなかなかのハジケっぷりを見せた(笑)半年前からのクラスメイト・旧フィヨルドランド生諸氏。プラス・初級クラスから上がってきた血気と熱意盛んな編入生の皆さん。新宿の某スタジオ2階のさほど広くもない部屋に、各々がキーボードなりシンセサイザーを持ち寄った15名ほどが押し詰めての、かなり密度の高い空間と3時間になりました。


 テスト明けの初回授業。ということで内容は当然「答え合わせ」。まずはテストが返却され、それぞれが菊地カウンセラー様に「キミはここをもっと重点的に」「音は取れてるけど理論ができてない」「あとこの辺りをもうちょっと修得できればOK」などなど。メンテナンスを受ける。

 テストは「聴音」と「筆記」の2種から成っていて、どちらも名の通り「実際に鍵盤で鳴らされる音から度数や和声を聴き取る」のと、「紙面に並べられたコードや譜面を分析する」のである。ぼくは「筆記」が思ったよりけっこうできていて、けれど「聴音」があまりにマズくて総合的に「留年」判定されたらしい。

 机上の計算は小賢しくできるくせに実地がてんでダメ。という、お決まりの「優等生的」な結果に我ながら苦笑せざるをえない。理屈ばっか達者でも仕方ねぇだろうに(勿論それじたいが悪いことではないけれど)。


 授業内で答え合わせを進めながら他の人たちの声を聴くと、みんな自分の聴いてきた(いる)音楽をうまく骨肉化して取り込めているなぁ。と思う。例えば「シャープ・ナインス」と言われて、ぼくなんかは「短3度」と理屈的な理解はできても実際に頭ん中でその音が鳴らない。けれどそれを即座に「ジミ・ヘンドリクスに特徴的な音」と具体的に解釈できる人たちがいて、あぁ。つまりそういうのができてこそ今学んでる内容が活きるんだろうなぁ。とか思う。思いながら聴いてる。

 先生がジャズ・ミュージシャンなので半ば必然、授業はジャズの文脈に沿って主に進められる。「例えばハービー・ハンコックだとこういうね・・・」と、菊地さんがピアノを弾く。「有名な話なんだけど、コルトレーンは速く吹くために同じスケールで鳴らせるホール・トーンばかりを・・・」とかって言う。

 ぼくはもともとジャズに通じているわけじゃ全然ないから、ハンコックとかコルトレーンの名前はわかっても、そのあとのもう1歩を踏み込んでの「うんうん」っていう納得。つまり「本当の」理解までにだいぶ時間がかかる(最後までわかんないときも多々ある。だからまぁ2回も「留年」している・笑)。授業内の共通言語であるジャズを、ぼくは好きになろうとはしているけれど、現時点でまだ好きになりきれてるわけじゃない。相変わらずスタジオへの往復の間ずっと電車の中でロックばかり聴いている。家でも最近またロックが増えた(あと彼女がDJのツナギを練習してる時間が長いから、必然的にテクノとかハウスの4つ打ちも多い)。


 それでも授業なりバークリー・メソッドが面白くて仕方ない。というのは考えてみれば不思議かもしれない。他ならぬぼく自身、たまにそう思う。普段家や電車の中で音楽を聴くとき、理論がどうこうとかって一切何も考えずにただ好き勝手に聴きたいのを選んでるだけで、聴きながら分析しようとかって全然しない(いやしろよ。って話だけど・笑)。

 なのに、そういう自分には一見無意味と思える音楽理論を、毎回(ぼくにとってはそう安くない)授業料を払って教わっている時間の、この面白さ。楽しさってなんだろう。勿論その大きな因子が菊地成孔という人の饒舌なり才気なり狂気(笑)なり。ベタな言い方につぶせばカリスマ性ってものであるのは違いないけれど、とはいえ・それだけじゃなくも思う。つまりそこには未知なるものを知る喜び。「学ぶ」楽しさ。という本質がある。


 何かを「学ぶ」のが楽しい。という長らく忘れていた当たり前の認識を得戻すことのできた・・・いや。もしかしたら初めて知ったのかもしれない。とにかくまず何よりそれに目覚めれたのが、ぼくの学生時代に得た最も大切な収穫の1つだ。目覚めさせてくれた人たちと、その人たちに出会えた幸運に改めて感謝したいと思う。

 で。その目覚めさせてくれた3人の恩師の話をそもそも今日は書く予定だったんだけど、どういうわけか(というか、例によって・笑)イントロが肥大し拡散していくうちに力尽きてもう眠いので次回。というひどいカット・アップを多用するのもいい加減やめなきゃいかんなぁ。と心に思う冷凍都市の29時半。姿をくらましつつ眠る。